ある幻想画家の手記

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レオナルド・ダ・ヴィンチ 本当の自画像

 これはあまりに有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの顔ですが、実はこのレオナルドが描いたオッサン、いやデッサンが本当にレオナルドの自画像なのか証拠は何もない。「わしの顔」なんてどこにも書いていないのだ。いかにも偉人の肖像にふさわしいということで自画像と『されている』だけである。
 
もちろん自画像の可能性もないことはない。しかしレオナルドは67歳で死に、65歳くらいのときにはもう手がまともに動かなくなっていたらしいから、このデッサンは遅く見積もっても60歳前半のもののはずである。60前半にしては老けすぎであろう。時代、場所を考慮してもである。このデッサンは一説によれば、老け方からして、公証人であったレオナルドの父親ではないかという説もある。
 
レオナルドは本当はどんな顔だったのだろうか? 有名なのはレオナルドの師ヴェロッキオがレオナルドをモデルにしたというダビデ像である。(下図)
当時の絵画、彫刻は工房をかまえての制作だったので、弟子がモデルになるのは普通のことであった。まして若き日のレオナルドが美しかったというのは証言がたくさんあるのでまず事実とみて間違いなく、それなら当然モデルになっていたと思われる。しかし、根拠はそれだけで、このブロンズ像のモデルがレオナルドだという証拠もない。
 
とはいうものの、レオナルド26歳のとき、初の大作となった(未完に終わったが)『三王礼拝』で、右端に立っている男がレオナルドの自画像だといわれており、それとヴェロッキオのダビデはなんとなく似ているのである。(下図)
 
 
これを自画像とする根拠は、レオナルドの兄弟子のボッティチェッリが、同じく『三王礼拝』を描いたときに、右端に自画像を描いているからであるのだが、(当時そういう習慣があったようである)、確かにこの青年は、ヴェロッキオのダビデ像と瓜二つとは言えないにしても、似ているとはいえる。
 
ちなみにこの青年は、ディ・クレディという画家の『三王礼拝』からしても、その対象の位置(つまり左端)に立っている老人がヨセフであるのに対し、聖ヨハネということらしいのだが、聖ヨハネと言えば、レオナルドが50歳を過ぎて最後に描いた油絵もそれである。そしてこの最後の油絵『聖ヨハネ』こそ、ヴェロッキオのダビデ像にそっくりなのだ。(下図)
その巻き毛、やや面長で、頬骨が出ていて、口の端だけをあげたような笑み、文句なしに似ていると言っていいだろう。
 
このヨハネのモデルが誰かは分からない。弟子のサライである可能性は高い。サライもまた美青年だったといわれるからだ。
 
サライは盗み癖があり、絵の才能も大したことはなかったが、美貌だったゆえ、レオナルドが弟子にしたと言われている。
 
しかしそれだけだろうか? 手癖が悪く才能もない者をただ美貌だからといって弟子にし、晩年まで連れ添うなんてことがありうるだろうか。
 
それだけではなくて、サライはレオナルドに似ていたのではなかろうか。
 
レオナルドは庶子で、父親の本妻に男の子が生まれなかったため、母親から引き離されて育てられた。だからレオナルドは母の愛に飢えており、母のぬくもりを求める心が、後年彼の描いた聖母マリアや、モナリザの母性に投影されたといわれる。サライが自分に似ていたために、自分が母親のようになって面倒を見たくなった可能性もないとは言えないのだ。希薄だった母子関係の再現。もしそうであるなら、このヨハネは若き日のレオナルドの容姿が投影されている可能性もあるわけである。
 
この『聖ヨハネ』像は、注文者もわかっておらず、レオナルドが自分のためだけに描き、また他者に見せるつもりもなかったと考えられている。ともあれ依頼主がいたとしても、レオナルドが「モナリザ」と「聖アンナと聖母子」とともにこの「聖ヨハネ像」を死ぬまで離さず所持していたのは確かな話である。この3点の油絵には、レオナルドにとって手放すことができない思い出以上のものが詰まっていたのではあるまいか。
It is said that Verrocchio modeled his bronze statue of David after young Leonardo da Vinci. The face resembles Leonardo's St. John the baptist. The painting might be Leonardo's self-potrait.