ある幻想画家の手記

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フランク・ロイド・ライトのジョンソン・ワックス社ビルと仏教建築

 フランク・ロイド・ライトの建築が日本建築の形態の影響を受けていることは誰もが知るところである。ロビー邸は平等院鳳凰堂(下図)だし、ユニティ教会や、ジョンソン・ワックス社の全体プランは、日光東照宮の本殿と拝殿を『呂』の字型につなぐプランを踏襲している。

 
そして上図のジョンソン・ワックス社ビルの全体写真を見たら、誰もがもうひとつの日本建築の影響を指摘せずにはいられないだろう。つまり四角い塔が回廊に囲われているという構成。それは明らかに塔を擁した仏教建築の伽藍配置だ。
 
しかしジョンソン・ワックス社ビルにおける日本建築の影響はそれだけではない。この建物にはいくつかの特徴的ディテールがあり、それもまたそうなのである。
 
ひとつはガラスチューブによる採光窓だ(上図)。これは周囲の工場街を見せないで、外光だけを採り入れるという考えの元に採用されたものだが、管状の素材を水平に連ねて採光と視線を調節するということであれば、これが簾の影響を受けていることは明白であろう。(簾自体は日本建築だけのものではないが)ただ単に採光と視線の調節なら曇りガラスでいい。
 
かようにこの建物には日本建築の影響があちこちに見て取れるのである。しかし、私は以前から、このジョンソンワックス社ビルにおいてどこからその形を持ってきたか分からない部分があった。それは上の写真で、塔と向かい合ったところに配されている、45度にふった壁を持つ3階部分、ライト自身が「鼻孔」と呼んだ部分だ。真上から見たほうがより分かりやすいと思うので、下にそれを示す。
この部分は経営陣のオフィスがある箇所になっているのだが、この特異な形状はいったいどこから出てきたのだろうか? この部分の下部、つまり1、2階は、この建物をもっとも特徴づけているあの有名なキノコ柱の大事務室、つまり大空間なのであり、このような形状はしていないのである。(下図)
この特異な3階部分は2階の屋根の上にとってつけたように置かれているのだ。これは本当に「鼻孔」だったのだろうか? なるほど、鼻の孔にあたる部分は換気塔なのだと思われるが、日本建築、仏教建築というモチーフを重ねてきて、ここでなぜ急に「鼻孔」なのかと思えてむずかゆくなるのである。
 
それが最近ハタと芋づる式に気づいたのだ。
 
きっかけは、釈迦の本であった。そのとき私は頭が釈迦漬けになっていて、すべてが釈迦に関係あるように見えてしまっていた。そのとき、上図のジョンソン・ワックス社ビルの最も有名な、キノコ状の柱が並ぶ大事務室の写真をふと見た。丸い天井を頂いた柱という最もこの建物を特徴づけているこのディテールは、ライト自身が「マッシュルーム」と呼んでいたこともあって「キノコ状」と表現されることが多いのだが、これの発想の原型は蓮の葉ではないのか?(下図
言うまでもなく蓮は仏教で大切にされている植物だ。今は泥沼でも、いずれその泥沼から茎が伸び、葉を開き、花も咲くという意味があるらしい。そして仏教において、蓮の上にはいつも何か乗っかっていないか? 
 
すなわち座禅を組んだ仏陀である。